はちみつは歯と歯茎の味方?その効果と注意点

はちみつが持つ意外なデンタルパワーとは

甘くて美味しいはちみつ。実は 「お砂糖なのに虫歯になりにくい」 という一見矛盾した特長があるのをご存知でしょうか?はちみつが歯や歯茎に優しい天然の甘味料として注目されています。古くから傷の消毒や喉のケアに使われてきたはちみつですが、近年の研究で虫歯菌や歯周病菌への抗菌作用が明らかになりつつあります 。今回は、はちみつのデンタルヘルス効果についてわかりやすく解説します。

虫歯の原因菌に対するはちみつの抗菌作用

虫歯の主な原因菌である ミュータンス菌(Streptococcus mutans) は、糖分から酸を作り出して歯を溶かします。ところが、はちみつにはこのミュータンス菌の働きを抑える強力な抗菌作用があります。2023年の研究では、ポーランド産の様々なはちみつを試験した結果、ソバ蜂蜜や森の蜂蜜(ハニーデューハニー)、そしてマヌカハニーがミュータンス菌に対し特に強い抗菌活性を示しました 。これらのはちみつには抗酸化物質やポリフェノールが豊富で、過酸化水素(オキシドール)の生成量も多かったことが分かっています 。実験では、はちみつに含まれる酵素(グルコースオキシダーゼ)が放出する過酸化水素が抗菌効果の鍵であることも突き止められました。実際、はちみつに過酸化水素分解酵素(カタラーゼ)を加えると抗菌力が大幅に低下したそうです 。

さらに興味深いのは、はちみつの抗菌成分は過酸化水素だけではない点です。研究者たちは、蜂由来の抗菌ペプチド(ディフェンシン-1)やポリフェノール類も殺菌効果に寄与していると報告しています 。特にマヌカハニーの場合、メチルグリオキサール(MGO)という独自成分が高濃度で含まれ、これが強力な抗菌作用を発揮します 。こうした多面的な作用により、はちみつはミュータンス菌を含む口腔内の様々な細菌の増殖を抑制することができるのです 。

はちみつは虫歯になりにくいって本当?

甘いものと言えば虫歯の大敵というイメージがありますが、はちみつは普通の砂糖と一味違います。ニュージーランド産マヌカハニーの研究で有名なピーター・モラン博士らは、抗菌活性の高いマヌカハニーは虫歯を引き起こしにくい(Non-cariogenic)可能性が高いと指摘しています 。実際、はちみつを口に含んだときの歯垢の酸性度(pH)の変化を調べた実験では、摂取5分後にやや酸性に傾くものの10〜20分で元の中性近くに戻り、エナメル質が溶け出す危険ライン(pH5.5)を下回ることはありませんでした 。これは通常の砂糖水だとpHが5以下に落ち、長時間その状態が続くのと対照的です。つまり、はちみつは酸による歯のダメージを起こしにくい甘味と言えそうです。

さらに驚くべきことに、はちみつ自体が歯を溶かすことはないことも確認されています。酸性度の低い(pHが3~4と酸っぱい)はちみつでも、直接歯に触れてエナメル質の表面を侵食しなかったとの報告があります 。むしろ種類によっては、細菌が作り出す酸から歯を守る抗脱灰効果すら示したはちみつもあったそうです 。なぜ砂糖たっぷりのはちみつが虫歯になりにくいのか不思議ですよね。この理由について専門家は、先述の抗菌作用により虫歯菌の酸産生が抑えられること、さらにはちみつ中の糖の主成分がショ糖ではなく 果糖やブドウ糖であることを指摘します。ミュータンス菌はショ糖からネバネバした多糖を作って歯に付着しますが、はちみつはショ糖含有量が少ないためプラーク(歯垢)の形成を促しにくいと考えられます。実際、ある研究では高濃度のはちみつ溶液でミュータンス菌の増殖が大幅に阻止され、人工的な蜂蜜液(砂糖シロップ)よりも効果的だったといいます 。こうしたことから、適切に使えばはちみつは「歯に優しい甘味料」になり得るのです。

はちみつがもたらす歯茎へのうれしい効果

虫歯だけでなく、歯茎の健康(歯周病予防)にもはちみつは一役買ってくれそうです。歯周病の初期段階である歯肉炎(ギンギビティス)は、プラーク中の細菌が歯茎を刺激して炎症を起こす状態です。はちみつの抗菌作用でプラーク中の細菌数が減れば、歯茎の炎症も和らぐ可能性があります。実際、ニュージーランドで行われたパイロット研究では、抗菌力の高いUMF15+のマヌカハニーを使った「はちみつキャンディ(ハニーレザー)」を毎食後に10分間ゆっくりとかむ習慣を3週間続けてもらいました。すると、はちみつを使用したグループではプラークスコアが0.99から0.65へと大幅低下し、出血が見られた部位の割合も48%から17%へと劇的に減少しました 。一方、比較のためシュガーレスガムをかんでいたグループでは、こうした指標に有意な変化は見られなかったとのことです 。研究チームは「マヌカハニーのトローチやガムは歯肉炎や歯周病の治療補助として有望かもしれない」と結論付けています 。甘い飴をなめていた人の歯茎の出血が減ったなんて、ちょっと信じがたい結果ですよね!

さらに他の研究でも、はちみつの歯周病予防効果が示唆されています。たとえば、インドで行われた比較試験ではマヌカハニーを歯茎に塗るケアと一般的な殺菌性マウスウォッシュ(クロルヘキシジン)およびキシリトールガムの効果を比べました。結果、マヌカハニー使用群と洗口液使用群はいずれもプラークや歯肉炎の抑制効果が高く、ガム使用群より有意に優れていました 。またサウジアラビアの研究では、矯正治療中の患者に日常的にはちみつをかむケアを取り入れてもらったところ、口腔内の細菌数が従来ケアより有意に減少し、調べた複数の細菌株すべてで増殖抑制効果が確認されました 。これは抗生物質で見られる抑制効果よりもしっかりと菌の繁殖を抑えたとの報告です 。さらに重度の歯周病患者を対象にした小規模臨床試験では、スケーリング・ルートプレーニング(歯石除去)後の処置にマヌカハニーを塗布して経過を追ったところ、通常治療のみの場合に比べ歯周ポケットの深さがより改善し、歯の付着状態も向上したというデータもあります 。このように、はちみつは歯茎の炎症を抑え治癒を促す抗炎症作用や組織修復を助ける作用も期待でき、歯周病予防・ケアの自然なサポーターになり得るのです。

効果的なはちみつの種類と日常への取り入れ方

とはいえ、「はちみつなら何でもOK!」というわけではありません。研究によれば、生(RAW)ハニーがおすすめです。市販の安価なはちみつは加熱処理されて酵素が失活している場合がありますが、生はちみつなら酵素が生きているため過酸化水素による抗菌作用が期待できます。

では、そんなはちみつを日常生活でどう活用すればよいでしょうか?以下にいくつかアイデアをご紹介します。

  • 砂糖の代わりに使う: 紅茶やハーブティー、ヨーグルト、シリアルの甘味付けに砂糖ではなくはちみつを使ってみましょう。単に砂糖を置き換えるだけで、普段の飲食で虫歯菌のリスクを減らせるかもしれません。料理の甘味付けにも活用できます。
  • 食後のナチュラルマウスケア: 食事の後にティースプーン1杯程度のはちみつをゆっくり舐めたり、口の中で転がしたりしてみてください。先の研究のようにガム代わりに噛んでもOKです 。はちみつが口内を殺菌しつつ、甘味で満足感も得られます。その後、水で軽くうがいすればベタつきも気になりません。
  • 喉・口内のケアに: はちみつは喉の痛み緩和や口内炎の保護にも使われます。口内炎や口臭の原因菌を抑える効果も報告されています 。就寝前、口内が乾燥しがちな方はティースプーン半分ほどのはちみつを喉になじませるように舐めると、潤いと殺菌作用で快適な睡眠に役立つでしょう。

もちろん、普段の歯磨き・フロス習慣を省略できるわけではないのでご注意くださいね。はちみつはあくまでサポート役。基本的なオーラルケアあってこその効果です。

はちみつデンタルケアの注意点

最後に、はちみつを歯のために取り入れる際の注意点も確認しておきましょう。

  1. 摂りすぎは禁物: はちみつの主成分は糖分(約80%が単糖類)です 。いくら虫歯になりにくいといっても、大量に舐めていればカロリー・糖質過多になりますし、口の中が常に甘い状態だと他の菌が増えるリスクもあります。適量(1日ティースプーン数杯程度)を守りましょう。
  2. ベタつきを残さない: はちみつは粘性が高いため、歯の表面に残ったままだとやはり衛生上よくありません。就寝前に使う場合は、その後しっかり水でゆすぐか歯磨きをして、甘い成分を洗い流してください。日中も、はちみつを口に含んだ後は水やお茶でサッと口をすすぐ習慣をつけると安心です。
  3. 品質に注意: 店頭にはちみつ製品は数多く並びますが、中にはシロップを混ぜた粗悪品も存在します。せっかく健康のために摂るなら純粋はちみつを選びましょう。また、舌触りがザラザラする結晶化蜂蜜は一度軽く湯煎で溶かすと口腔内で扱いやすくなります。ただし加熱しすぎると酵素が壊れるため要注意です。
  4. アレルギー・幼児への使用: はちみつにアレルギーがある人は当然避けてください。まれに蜂由来の成分に反応するケースがあります。また1歳未満の乳児には絶対に与えないでください(乳児ボツリヌス症のリスクがあります)。今回の話題は大人向けですが、豆知識として覚えておきましょう。

まとめ:自然の甘さで賢くオーラルケア

甘いのに虫歯になりにくく、さらに歯周病菌まで抑えてくれるなんて、はちみつはまさに「おいしい万能薬」ですね。近年の研究でそのメカニズムや効果が続々と報告され、はちみつがデンタルケアにも有用であることが裏付けられてきました 。一方で、「はちみつさえ食べていれば絶対虫歯にならない!」という魔法でもありません。専門家は、「試験管レベルでは有望だが、実際の虫歯予防効果については今後の研究次第」と慎重な姿勢も示しています 。ですから、普段の歯磨きや定期検診は続けつつ、砂糖の代わりやプラスアルファのケアとして賢くはちみつを活用するのがベストです。自然の力を上手に取り入れて、ニコッと白い歯と健康な歯茎をキープしましょう!

Reference:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37998842/

https://www.nature.com/articles/s41598-018-29188-x

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15125017/

https://www.wiadomoscilekarskie.pl/pdf-199734-122974

https://ouci.dntb.gov.ua/en/works/lD3XWJM4/

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