マヌカハニーの抗菌成分MGOの正体と、はちみつ本来の魅力

健康志向の高い方なら「マヌカハニーは抗菌作用がすごい!」と耳にしたことがあるかもしれません。その抗菌パワーの鍵として注目されるのがメチルグリオキサール(Methylglyoxal, MGO)という成分です。では、このMGOとは一体何者なのでしょうか?本当に体に良いものなのか、そしてはちみつの本当の魅力とは何なのか、解説していきます。

MGOは植物のストレス反応で生まれる物質

MGOは植物がストレスを受けたときに増える物質です。植物は乾燥や高温、痩せた土地など過酷な環境下に置かれると、生き延びるための反応として通常の2〜6倍ものMGOを産生することが知られています 。MGOは化学的にはα-オキソアルデヒドに分類される非常に反応性の高い分子で、過剰に作られると植物自身にとっても有害になり得ます 。そのため植物はグリオキサラーゼという解毒システムでMGOを速やかに処理し、細胞のダメージを防いでいるのです

要するに、MGOは植物にとって「諸刃の剣」のようなもの。ストレスに対抗するシグナル物質として増える一方で、増えすぎれば自分の細胞さえ傷つけかねない強い作用を持っています。こうした背景を踏まえると、MGOが決して“優しい”物質ではなく、植物が苦境を乗り切るために生み出すストレス化合物だということが分かります。

マヌカハニーにはMGOがたっぷり、その理由とは?

ニュージーランドやオーストラリアでは土地が痩せた厳しい環境にマヌカという植物が自生しています。その花の蜜から採れるマヌカハニーには、他の一般的なはちみつではほとんど検出されないほど多量のメチルグリオキサール(MGO)が含まれていることが知られています 

マヌカハニーが特別視される最大の理由は、この高濃度のMGO含有です。ニュージーランド産の純正マヌカハニーには、品質グレード(UMFやMGO値)としてMGO含有量が表示されており、例えばMGO 500+といった蜂蜜には1kgあたり500mg以上ものMGOが含まれます。実際、マヌカハニーのMGOレベルは通常の蜂蜜の最大100倍にも達すると報告されています 。一方、クローバー蜂蜜やアカシア蜂蜜など他の蜂蜜にはMGOはごく微量しか含まれていません。この違いは、マヌカの花が過酷な環境で咲くことや、その蜜に特殊な成分(ジヒドロキシアセトン=DHA)が含まれることが要因とされています。DHAは時間とともにMGOへ変化するため、マヌカの蜜は熟成される過程でMGOを豊富に蓄えるのです

MGOが体内で引き起こすものとは?

それでは、そのように抗菌成分として期待されるMGOが私たちの体に入ると何が起こるのでしょうか? 実は、MGOは体内でもその強い反応性ゆえに様々な影響を及ぼします。

まず、MGOは体内のタンパク質や脂質とすぐに結合してしまいます。するとAGEs(終末糖化産物、糖質由来の「体のゴミ」)やALEs(脂質過酸化最終生成物、脂質由来の「ゴミ」)と総称される不要な老廃物が発生してしまいます。これらAGEやALEは血管や組織に蓄積して老化を促進したり炎症を誘発したりする厄介者です。

体はこうした“ゴミ”を見逃しません。すぐに免疫システムが働き、マクロファージという貪食細胞(体内のゴミや細菌を飲み込み処理してくれる白血球の一種)が動員されます。マクロファージはAGEs/ALEsのような異物を発見すると、それを貪食・処理すると同時に炎症性のサイトカイン(免疫伝達物質)を放出します 。これにより局所的に炎症反応が引き起こされ、血流が増えて白血球が集まり、組織の「掃除」が始まります。

ここで重要なのは、炎症とは本来、身体が異物やダメージを処理するための防御反応だという点です。MGOによって引き起こされた炎症は、身体にとっては「この毒(MGO)やそれが作ったゴミを必死で片付けている状態」とも言えます。その過程で、たまたま細菌などの病原体も一緒に排除されることがあります。これがマヌカハニーの「抗菌作用」の正体だと考える専門家もいます。つまり、MGO自体が直接バイ菌だけをやっつけてくれる魔法の成分なのではなく、MGOという刺激物質に対抗するために免疫が活性化し、その副次的効果で菌も退治されているに過ぎない、という見方です。

実際、MGOは強い毒性を持つため細菌の細胞も溶解(lysis)させてしまうことが報告されています 。言い換えれば、MGOは私たちの体の細胞にとっても諸刃の剣であり、高濃度では有益な腸内細菌まで含めて細胞を傷つけかねない物質です。マヌカハニーを摂取すると「免疫力が上がる」とよく言われますが、その裏側では体が「毒」を排除しようとして炎症状態になっている可能性があることも覚えておきましょう。

はちみつは優れたエネルギー源!本来の魅力とは?

では、抗菌作用ばかりが取り沙汰されるマヌカハニーを含め、はちみつ本来の魅力とは何でしょうか? 実は、はちみつ最大の利点は優秀な「糖質エネルギー源」であることにあります。

ミツバチたちは花から集めた蜜(スクロースというブドウ糖+果糖から成る二糖)を、自分たちの酵素の力で単糖に分解しながら巣に持ち帰り、濃縮して貯蔵します。つまり、ショ糖(砂糖)の形ではなく、最初からブドウ糖と果糖という体にすぐ吸収される形で蜜を熟成させ、はちみつとして蓄えてくれているのです

その結果、私たちがはちみつを食べると、体は分解の手間をかけずに即エネルギー源として利用できます。例えば、でんぷん質の多いお米やイモなど多糖類(10個以上の糖がつながった炭水化物)は、単糖にまで消化・分解されて吸収されるのに3〜4時間ほどかかります。一方、砂糖や乳糖など二糖類(2〜10個の糖からなる炭水化物)は消化に10分〜1時間程度を要します。しかし、はちみつに含まれるブドウ糖・果糖のような単糖類は消化の必要がなくダイレクトに吸収されるため、ほぼ即座にエネルギーとして使えるのです。

要するに、はちみつは「ミツバチがあらかじめ作ってくれたスポーツドリンク」のようなもの。疲れたときに速やかに体と脳にエネルギーを補給してくれる、自然が生んだ理想のエネルギー食品なのです。抗菌作用ばかりに目を向けるのではなく、純粋な栄養源としてのはちみつの価値もぜひ再認識してください。

おわりに:上手に取り入れて健康に

マヌカハニーの主成分MGOについて、その意外な正体と作用を見てきました。MGOは植物がストレスに耐えるために生み出す強力な物質であり、私たちの体内では炎症反応を誘発することで間接的に抗菌効果を発揮する可能性があります。一方ではちみつは、即効性のあるエネルギー補給源という大きな魅力を持っています。

とはいえ、「マヌカハニー=悪」というわけでは決してありません。適量を喉のケアや栄養補給に用いる分には、はちみつの天然の恵みを享受できるでしょう。ただし、「特別な抗菌成分が免疫力を劇的に高める」と過信するのではなく、科学的に分かっている範囲でその作用メカニズムを理解した上で賢く取り入れることが大切です。 

健康意識の高い皆さんも、ぜひはちみつの本来の良さを味わいながら、上手に日々の生活に取り入れてみてくださいね。MGOの話題をきっかけに、蜂たちがもたらしてくれる甘いエネルギーに改めて感謝したくなりますね。健康的な毎日の味方として、はちみつを賢く活用していきましょう!

参考リンク一覧

https://www.mdpi.com/1422-0067/18/1/200#:~:text=oxidative%20stress,novel%20glyoxalase%20enzyme%2C%20named%20glyoxalase

https://mountainvalleyhoney.co.nz/articles/what-is-mgo-in-manuka-honey-methylglyoxal-explained/#:~:text=per%20kilogram%20in%20Manuka%20honey,with%20an%20MGO%2083%2B%20rating

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6146089/#:~:text=principally%20caused%20due%20to%20the,are%20APCs%2C%20peptides%20derived%20from

https://cales.arizona.edu/backyards/sites/cals.arizona.edu.backyards/files/b13fall_pp11-13.pdf#:~:text=Honey%20is%20different%20because%20of,and%20are%20easier%20to%20digest

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