タンパク質と鉄分を味方に:心と体が軽くなる食事のススメ
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はじめに──「だるい」「落ち込みやすい」は“栄養サイン”かも
なんとなく疲れやすい、朝エンジンがかからない、気分が不安定…。年齢のせいにしがちな不調の背景には、タンパク質と鉄分の不足が潜んでいることが少なくありません。糖質中心の食生活が続くと、体も脳もエネルギーを上手く作れず、気分や集中力まで落ちやすくなります。
本記事では、「どれくらい・どうやって」タンパク質と鉄を摂ればいいかを、やさしく実践的にまとめました。
1. タンパク質が足りないと何が起こる?
- 体の材料:筋肉・骨・皮膚・髪・内臓、血液のヘモグロビン、各種ホルモン、消化・代謝酵素などはすべてタンパク質が原料。
- 心の材料:セロトニンやドーパミンなど神経伝達物質の原料はアミノ酸。足りないと、意欲や安定感にも影響。
- 入れ替わるカラダ:肝臓は約2週間、赤血球は約120日、筋タンパクは約180日で半分が入れ替わる=毎日こまめな補給が必要。
- 必要量の目安:一般に1日50〜70gのタンパク質は欲しい(活動量や体格により増減)。食品だけで満たすなら、肉・魚で250〜300g/日が一つの目安。
「お肉が重くて食べられない…」は、実は
タンパク不足で胃腸の働き自体が弱っている
タンパク質の食事摂取基準(推定平均必要量・推奨量 g/日)
出典:厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2015年版)』より作成
年齢等 | 男性:推定平均必要量 | 男性:推奨量 | 女性:推定平均必要量 | 女性:推奨量 |
---|---|---|---|---|
1〜2歳 | 15 | 20 | 15 | 20 |
3〜5歳 | 20 | 25 | 20 | 25 |
6〜7歳 | 25 | 35 | 25 | 30 |
8〜9歳 | 35 | 40 | 30 | 40 |
10〜11歳 | 40 | 50 | 40 | 50 |
12〜14歳 | 50 | 60 | 45 | 55 |
15〜17歳 | 50 | 65 | 45 | 55 |
18〜29歳 | 50 | 60 | 40 | 50 |
30〜49歳 | 50 | 60 | 40 | 50 |
50〜69歳 | 50 | 60 | 40 | 50 |
70歳以上 | 50 | 60 | 40 | 50 |
付加量(女性)
妊娠:初期 +0 / 中期 +10 / 後期 +25(g/日)
授乳期:+20(g/日)
2. 良質なタンパク質=必須アミノ酸がそろっている
タンパク質は20種のアミノ酸の組み合わせ。なかでも体内で作れない必須アミノ酸9種が不足すると、合成効率が落ちます。
動物性タンパク質(肉・魚・卵・乳製品)は必須アミノ酸のバランスがよく、いわゆる「アミノ酸スコア」が高いのが強み。特に卵は“ほぼ完全栄養食”。毎日2〜3個(個人差あり)を目安に。
プロテインスコアとアミノ酸スコア 比較表
食品 | プロテインスコア | アミノ酸スコア |
---|---|---|
鶏卵 | 100 | 100 |
シジミ | 100 | 100 |
鶏レバー | 96 | 100 |
豚レバー | 94 | 100 |
イワシ | 91 | 100 |
豚肉 | 90 | 100 |
マトン | 90 | 100 |
カジキ | 89 | 100 |
アジ | 89 | 100 |
牛レバー | 88 | 100 |
イカ | 86 | 71 |
鶏肉 | 85 | 100 |
チーズ | 83 | 92 |
牛肉 | 79 | 100 |
白米 | 78 | 65 |
牛乳 | 74 | 100 |
エビ | 73 | 71 |
カニ | 72 | 81 |
タコ | 72 | 71 |
サケ | 66 | 100 |
小麦粉 | 56 | 41 |
大豆 | 56 | 86 |
3. どれくらい食べればいい?(具体量)
以下はタンパク質10gをとる目安量。1日の合計50〜70gに向けて組み合わせましょう。
- 肉類:牛65g、豚83g、鶏55g、羊68g
- 魚介:アジ56g、イワシ63g、サケ58g、エビ86g、たらこ60g
- 卵:1.5個(約79g)で10g
- 乳製品:チーズ50g、牛乳470g
- 大豆製品:豆腐330g、味噌160g
※植物性のみでは量がかさみやすく、必須アミノ酸の偏りも出やすい。メインは動物性、サブで大豆が使いやすい。
タンパク質を10g摂取するための必要量
食品 | 必要量 |
---|---|
牛肉 | 65g |
豚肉 | 83g |
鶏肉 | 55g |
羊肉 | 68g |
チーズ | 50g |
イワシ | 63g |
サケ | 58g |
サンマ | 52g |
アジ | 56g |
カジキ | 48g |
エビ | 86g |
たらこ | 60g |
卵 | 79g(1.5個) |
味噌 | 160g |
豆腐 | 330g |
牛乳 | 470g |
コーンフレーク | 690g |
米飯 | 650g |
食パン | 280g |
うどん | 690g |
そば | 360g |
オートミール | 100g |
ジャガイモ | 1097g |
4. 鉄分は「ヘム鉄」を意識
鉄は酸素運搬とエネルギー産生に不可欠。女性は月経・妊娠・出産で失いやすく、隠れ鉄不足がとても多いです。
- 吸収率:動物性のヘム鉄(約10〜20%)に比べ、植物性の非ヘム鉄(約1〜5%)は1/10程度と低い。
- おすすめ食材:レバー、赤身肉、マグロやカツオ等の赤身魚、貝類(カキ・アサリ・シジミなど)。
- 鉄を意識(赤身・レバー・貝+ビタミンC)。お茶・コーヒーは食後少し空ける。
※食品の鉄にはヘム鉄(肉・魚・貝・レバー)と非ヘム鉄(野菜・豆・穀類)の2種類があります。ヘム鉄はもともと吸収されやすい。非ヘム鉄は吸収されにくい(数%)のですが、ビタミンCがあると吸収率がグンと上がります。
※お茶やコーヒーにはタンニン(ポリフェノール)が多く、鉄と不溶性の複合体を作ってしまいます。結果、腸で吸収されにくくなる。特に非ヘム鉄の吸収を強く下げます。目安として、食後すぐ(〜1時間程度)は避けると、せっかくの鉄の吸収阻害を減らせます。お茶・コーヒーは食間(食後1〜2時間)に。
合言葉は「まずは肉をしっかり」。目安としては毎日少なくとも200g以上のお肉を食べること。
5. 糖質は“控えめ”に。まず主食を少し減らす
糖質(特に白砂糖・白米・精白小麦)を摂り過ぎると、血糖値の乱高下→だるさ・食後の眠気・脂肪蓄積につながりやすい。
ただしいきなり糖質だけを減らすと失速します。先にタンパク質と鉄、ビタミンB群などを満たしてから、以下の順でゆるやかに。
1)夕食の主食を半分→0へ 2) 昼も同様 3) 朝も様子をみて調整
「制限」より“置き換え”と“満たす”が続くコツ。
6. 具体的な「一日の組み立て例」
例A:初級(まずタンパク量を増やす)
- 朝:卵2個のオムレツ+ヨーグルト(無糖)+チーズ少量
- 昼:鶏むね150gグリル+サラダ(オリーブ油&塩)+具だくさん味噌汁
- 間食:プロテイン20g(牛乳または水)
- 夜:牛赤身150〜200gソテー+温野菜+海藻サラダ(ビタミンC源を添える)
例B:中級(主食を半分〜抜き)
- 朝:プロテイン20g+ゆで卵1〜2個+果物少量
- 昼:サバ缶+豆腐冷ややっこ+ぬか漬け
- 夜:豚ロース200gの生姜焼き+キャベツ千切り+アサリの味噌汁
目安
プロテイン:合計50〜70g
肉:200〜300g
卵:2〜3個
糖質:半量→ときどき無し
7. “まごわやさしい”で栄養を底上げ
主役は肉・魚・卵。そこに、
ま(豆)ご(ごま・ナッツ)わ(海藻)や(野菜)さ(魚)し(キノコ)い(イモ)
をサブとして添えると、ビタミン・ミネラル・食物繊維が過不足なく入り、代謝が回りやすくなります。
8. 消化・続けやすさの工夫
- 柔らかく・小さく:ひき肉、ミンチ、シチュー、スープ、蒸し料理は胃腸にやさしい。
- 少量多回:一度に食べにくければ、3食+間食(ゆで卵/サラダチキン/チーズ/プロテイン)で合算。
- 下味冷凍&作り置き:鶏むねの塩こうじ漬け、豚ロースの生姜醤油漬け、鮭の味噌漬け等をストック。戻すだけ&焼くだけ。
9. プロテインとサプリの“かしこい”使い方
プロテイン(補助食品)
- 目的:足りない分を埋める。朝や間食に20g×1〜2回。
- 種類:吸収が速く飲みやすいホエイ、胃腸にやさしいソイ。好みでOK。
- 飲み方:水or牛乳。食事が軽い日は牛乳で“たんぱくブースト”。
サプリ(必要に応じて)
- 鉄:食事+サプリで底上げ。ヘム鉄でも良いが、キレート鉄(胃にやさしく含量が多い)を少量から。
- ビタミンB群:代謝の潤滑油。Bコンプレックスを朝・夕。
- ビタミンC:鉄吸収UP&抗酸化。1000mgを1日2〜3回に分けて。
- ビタミンE:血行サポート。鉄と同時は避け、時間差で。
※鉄は酸素を運んでエネルギーをつくる大切な栄養素ですが酸化しやすく活性酸素を生みやすい性質があり、ビタミンEは血行を促進し細胞膜を守る強力な抗酸化ビタミンなので、同時に摂ると鉄の酸化反応にビタミンEが使われて互いの働きが弱まるため、時間をずらして摂るのが望ましいです。
※持病・服薬中・妊娠授乳中は、開始前に医療者へ相談を。
10. よくあるつまずきと対処
Q1. 肉200gがきつい
A. ひき肉・鶏むねのそぼろ・つくね・シチューに。卵2〜3個+魚100g+肉100gなど分散でOK。
Q2. 便秘・胃もたれが心配
A. 量を少しずつ。汁物に肉や魚を細かく入れると消化が楽。水分・食物繊維(海藻・キノコ)・良質油も一緒に。
Q3. 甘いものがやめられない
A. まずタンパク質を十分に。満たされると欲求が落ち着きやすい。どうしてもなら食後にひとかけの黒糖や高カカオに。飲料の砂糖は最優先で削減。
Q4. 鉄サプリでムカムカ
A. 食後に。キレート鉄や少量分割にすると楽なことが多い。ビタミンC併用で吸収UP。
11. 1週間の“たんぱく質・鉄”お買い物リスト(例)
- 肉:牛赤身、豚ロース/肩ロース、鶏むね・ささみ、レバー(少量から)
- 魚介:サバ/サケ/アジ/イワシ、カツオ・マグロ(頻度は控えめにローテ)、アサリ/シジミ/カキ
- 卵:1パック以上(毎日2〜3個目安)
- 乳製品:ヨーグルト(無糖)、チーズ
- 大豆:納豆、豆腐、味噌
- 野菜・海藻・キノコ:ブロッコリー、葉物、トマト、わかめ、ひじき、しいたけ類
- 間食:素焼きナッツ、チーズ、サラダチキン
- 調味・油:塩・酢・しょうゆ、オリーブオイル、バター
12. 今日からできる3ステップ
- 毎食にタンパク質の主菜を置く(肉・魚・卵のどれかを“手のひら大”)。
- 主食はまず半分に。丼→軽め一杯、一膳→半膳へ。
- 鉄を意識(赤身・レバー・貝+ビタミンC)。お茶・コーヒーは食後少し空ける。
13. 期待できる変化
・朝のだるさが減る、午後の“どんより”が軽くなる
・爪・髪・肌の質感UP、手足の冷えや立ちくらみの軽減
・イライラや落ち込みの“底”が上がる、やる気が出る
変化は人それぞれですが、2週間〜1か月で何かしら体感する方が多い印象です。
14. おわりに──「制限」より「満たす」
ポイントはたった二つ。
① 毎日しっかりタンパク質 ② ヘム鉄を意識して補う。
そのうえで、精製糖質を“控えめ”に。食べるべきものを増やすと、不思議と“減らすべきもの”が自然と減っていきます。
年齢は関係ありません。今日の一皿から、心も体も軽くなるループを回していきましょう。
参考書籍:
藤川 徳美 (著) 「うつ消しごはん タンパク質と鉄をたっぷり摂れば心と体はみるみる軽くなる!」